旅日記

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4日目


■Pain

おそらく今日が最終日になるだろう。
早めに出てしまうと、下手すりゃ午前中でついてしまうのではないだろうか。

朝4時に起床したとき、不覚にもこんなことを考えていた。
結局この考えは改められることになる。終わってみれば一番きつい一日であった。

しかし体中が痛い!
あほな私は「夏は寝袋いらないんじゃない。暑いだけだしー。」となぜか思い込んでいて銀マットのみでテントで寝ていたのだが、さすがにそんなに甘くはなかった。
昨夜から5回は体の痛みで起きてしまった。
床が硬く、頭も痛い。

しかも背中が半火傷状態なのかわからないがヒリヒリする。汗かきたくねー。

両目が(××)になった状態のまま顔を洗って歯を磨く。
トイレがあるのは昨日夕日を見ていた第2展望台の裏である。
暗く、虫の声も聞こえない日の出前。昨日との表情の違いに感心する。

できるだけ音を立てないようにテントをたたみもちろん一番で出発。今日は5時前に出ることができた。
大房岬から公道へ。昨日と同じルート。
もちろん極楽!あまりに速すぎてブレーキをかけていなかったら死んでました、多分。

国道にでて、いつものとおり海沿いを軽快に飛ばす……あれ、ペダルが重いぞ。
坂でもない道ですらすぐに腿に鈍痛が残る。

昨日の要塞攻略二連発に加え疲れもたまってきたところにあまり眠れなかったことだなーと分析。

だがそれだけではなかった。
どうやら向かい風らしい。く、く、これが意外と苦しい。
まだ何も食べていないのもたたってか力が入らない。そんななか遠慮なく坂道が続く。
「元気を出せばなんでも出来るーーー」
今日も定説を口ずさみながら、全身で体重をかけてペダルを押す。

やっと弁当屋さんを発見して、一番大きな弁当とポテトサラダを購入。
力がみなぎってくる。「いくぞおー!」

今日のテーマはとにかく距離を稼いで家に着くことだった。
これまでと違い風景を楽しむことも意識せず(前日で大満足していた)、とにかく走る、走る、走る!
日が昇ってくると今日も暑い。ちょっと大変なことになりそうな気分……。Tシャツを脱ぐ。

しかし今日はまた地味な坂道が多いなーー。
角度は無いのだが延々とのぼりが続くのである。
ショックだったのがヒーコラ坂道と闘っているとき、前方の地元の中学生野球部の男子があたりまえのように自転車を押して歩いていた。ジモティーにとってもきついんかよー。
そんな坂を誰もほめてくれやしないのに意地だけでヒーコラ登っている。ゆっくりゆっくりではあるがそのうちにその野球部に追いつき、ゆっくり追い越す。
追い越したらもう一度追いつかれるのはかっこ悪いので、さらに頑張ってみる。


■変化

今日はとにかく国道127をずーっと北上していればいい、ということでまったく地図を見ないでイノシシと化していた。
しかし今日も太陽が元気だ。自分が晴れ男なのは解るが、旅をはじめる前日まで雨かどうかなんていっていたのに、この4日間で曇ったのって2日目の午前中ぐらい。
あとは夏の太陽の大サービスであった。
今日は最終日とあり、「いつもよりがんばっておりますーー」といったところ。
ちょっとキツイナー。

長い距離を登りきったとき、反対車線から外人さんが3人でツーリングしてきた。
お互い手を上げて挨拶。こういう何気ないふれあいで「頑張ろう」って気になるものだ。
日に一度くらいは車のひとに「プッ、プッ」と応援された(茶化された?)。単純なことで前向きになれる自分。素直な性格でよかった。

トンネルも多かったがかなり慣れてきた。
とにかく一生懸命こいでいる「ふり」さえすれば文句は言われない。
でかいトラックにはなんどか轢かれそうになったけど。横を通り過ぎる風圧で引っ張られるぐらい。
「こえー!!」
なんつって楽しむ。

橋などもなれてきて左側なら車道をどうどうと走る。
ここでも後ろは振り向けないが、わざわざ階段をのぼって歩道を渡るよりはずっといいのだ。

やがて16号へ。
やっと地図で確認する。
「あれ?」いまだ距離感がつかめない私は16号に入る位置を間違えてしまったようだ。
かなりの間内陸を通ってきて127の終わりまできてしまったようだ。

「いかんいかん」
なるだけ海沿いを通ろうとしていたので、左折。県道90号という道らしい。
海沿いでT字路になっているので、そっから右折して県道87号に入ってまた北上しよう。

突き当りの木更津港まで直進、さぁ右折……とおもったら左前方、海の上に大きな建造物を発見する。
「あ、あ、あれはなんだー?」
近づいていくとどうやら「橋」らしい。

導かれるように港を迂回して橋のたもとに。
「潮見大橋」と書いてある。中の島というところに通じているらしく、四角いらせん状の上り坂が橋の両端から私を導く。
「これは登らなきゃ」
そうです。いつのまにか私は坂のぼり大好きっ子と化していたのです。
「ある種のフェチだな」とは思いながらも、どきどきの橋に挑戦。

苦しさが心地よく、おもわず笑顔。フェチを越えた変態かもしれない。
島に着くと、一面の芝!ぎらぎらの太陽の下、ほとんど影というものが無い。
濃い緑とそれに反射する強い日の光。港を出入りする船をカメラに収めて、賞味5分くらいで戻る。


■渇き

大満足で県道87に戻る。
と、ここでのどの渇きを覚える。なんせ今日は炎天下なのに加えて日陰がまったく無い。
飲み物買って、日陰でちょっと休もう。

しかし自販も店も見つからない。田舎道が続く。
先に日陰を見つけてしまった。東京湾アクアライン連絡道というところのガード下である。
トイレと落書きはあるが自販が無い。しょうがないからしばしの休憩。
せっかちな私はおそらくじっとしているよりは直ぐに出発してしまいたくなるので、20分間休み!と時間を決めた。
炎天下にちょっと不安を覚えたのだ。

結局15分ほどで出発……我慢を知らない男である。
しかし……田んぼしかない。はるか遠くまで同じ色が続き、熱でゆらゆらゆれている。
もちろん自販もない。
ここにすんでる人はどこで買い物してるんだろう?
すべて自給自足なのか……?

とにかくここは進むしかない。迷いつつも袖ヶ浦へ。
と、「袖ヶ浦海浜公園」の看板がある。立ち寄ろうかなとは思っていたし、まさかここなら確実に自販があるだろうと思って寄り道する。

ところが……、入って直ぐの駐車場、カキ氷屋は営業用の車だけを残し見当たらず、自販もない。
そんなはずは無いと思い、延々と広い公園内を探しまくるがやはり無い!
ここは意外と景色がよかったけどそんなものを楽しんでいる余裕はすでに無く、大慌てで国道に戻ろうとするが、ここは工業地帯らしくやたらめったら走っている大型トラックとともに延々と道を進んだ先がただの工場で行き止まりになっていたり、はっきり言って迷子になった。

なんとか国道16号に戻ったのだが、ここはバイパス?
左手に時々化学工場とか発電所の入り口があるだけで、えんえんと道が続くだけ。
自販も無いし、もちろん休めそうなところも無い。等間隔で置かれた気持ち程度の木の陰くらいか。

かなり疲労がたまっているのか、ペダルが重い。フロントが3では耐えられず、2−6までギアを落とす。
道路の反対側には自販が時々見える。
が、ここまできたら左側通行のまま自販見つけるまで我慢してやる!
もはや訳がわからないどころか意味すらない意地を張る私。今思うと、ちょっとやばくなっていたのかも知れない。

ここからどの程度待ちつづけたかわからないが、かなりの距離を走った後ついにコカコーラの自販を見つけた!
「オ・オアシス」とは言わなかったが、財布を取り出すのももどかしく、500mlのコーラを買い「プシュッ!、ゴクゴクゴクゴクゴクゴク……ゴクゴク」渇きを潤す心地よい喉の痛み。こんなに美味いコーラは飲んだことが無い。3口程度で飲み終わる。

やっと工業地帯も抜けたようなので、ここからは幾らでも飲めるでしょう。
こうして「千葉砂漠」を突破する。

千葉市に入る直前、カレー屋を発見。
大盛り、ちょい辛目で注文。目の前のポット一本の水を一人で飲んでしまった。


■I did it!

飯食って気力が戻る。
もうちょっとだ。ここからさらに前進。

国道14号からいつもの357に入る。見慣れた道に戻ってきた。
が、行きは歩道を文句言いながら使っていたが、いまや堂々と車道を走る。

葛西臨海公園に何故か入り、そのまま抜けていつもの道を帰る。
午後4時、自宅に着く。

終わったー。
ドアを開けると、ウータンが笑って出迎えてくれた。
早速シャワーを浴びようとすると顔が黒い黒い!
357で排気ガス浴びてたからなーなどと思いながら念入りに顔を洗ってはみたものの、やっぱ黒い!
そらそうか。こんだけ外にいりゃ焼けますよ。


■感想

振り返れば天気にも恵まれ、パンクすることも無く、アクシデントの無い旅だった。

自分の中でもはじめての経験であり、ある種のチャレンジではあったが、本当にやってよかったと思う。

どちらかというと普段から自分と向き合っているほうだと思うので、旅を終えても取り立てて自分についての新しい発見はなかった。
逆にいつもの「自分観」を強く再認識する結果となった。

まず、ますます痴呆が進んでいる(笑)
ルート忘れたり国道のナンバーを覚えなかったりと、さらに悪化してるような気がした。

それより改めて自覚したことは「充実感」というものが自分の中での大きな楽しさなんだろうなということだ。

いつも今の自分を楽しめずにあせって何かしようとするところは自分でも嫌なところなのだが、それを考え出すとますますブルーになるのでこう考えることにしている。
「焦って急かされているとしても、現在を真剣に夢中になって何かをしているほうが充実している」

坂道と闘っている自分などは必死だし、登りきった時には自分に勝ったように思えてうれしい。
結果として何も残らないが、苦しい中でペダルをこいでいるようなとき真剣に今の自分を使いきっているような気になれる。
そんな意味のない充実感が俺にとっては楽しいし、人生を生きていると思えるのだ。

だから生き急いでいるように見えても、将来を考えてないように見えても、真面目すぎてみえようとも、他人からみたら重荷になっても……、焦ってせきたてながら今の物足りない自分と闘って生きていこうと思う。

ずっと変わらないのは「結果を出さなくてはいけない」ということだけ。
「自己満足の充実感」が空回りで終わったり上滑りしているだけの現状から、少しずつこの覚悟も形を変えてじっくりと努力がみを結ぶようになればいいな。

最終日がきつかった分、旅を終えた時に達成感を得ることができた。
終わってみたらすべての坂道から逃げることもなかったし、自分で掲げた目標も一つ一つ達成することができた。

とにかく自分なりに新しい扉をノックした。
心地よい満足感を胸に、これまでの自分を少し肯定的に見られますように……。
コンスタントに結果を出せる自分になれるよう充実した人生を送って行きたい。

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